ホメオスタシス

 まだ太陽が昇りきらない曇りの朝が好きだ。

 見渡す限り白とグレーの中間のような色に満たされた空は、地面に反射してぼくと世界を一つに同化してしまったような気にさせる。そうした朝には、むなしさが襲ってくるけれど、何か心地よい感覚があるのも事実で、この世界に自分は生きているんだなと実感する。

 

でもそういう朝をしみじみと感じ入る余裕はない。基本的に夜勤明けの朝でしかそれを体験できないし、バイト中に店の外でずっと立ち止まって空を見上げているのもおかしな話だし。それに夜勤明けでもなければそんな時間に起きることはない。毎日夜中まで起きて朝に眠る生活の中にそんな心の隙間はないからだ。だからその朝の景色を見られるのが、夜勤をやっていてよかったなと思う唯一のことでもある。

 

 ここでのアルバイトは毒にも薬にもならないまったく無味乾燥なものだ。なんの勉強にもならないし、何の苦労もない。正直に言って仕事量と時給が釣り合っていないとは思うが、慣れてしまえば別にどうってことはない。アルバイトのメンバーもルサンチマンを抱えた悲しきモンスターばかりで、常に何かを批判していないと自分を保てない人たちなのには少し嫌悪感があるけど、我慢できないほどではない。

 

バイト変えたいなとよく思うけど生来の面倒くさがりさが発揮されて新しくバイトをさがすなんてこともできない。近頃は無を享受して日給一万円もらえるなら我慢してやることもないなとすら思い始めてきた。人はこうやって堕落していくのかもしれない。

 

 でも最近は毎日充実している。堕落とは逆の生活を送れているのかもしれない。大学のことが母親にバレてからゲーム禁止と早寝早起きと朝の運動、朝食を食べシャワーを浴び、服を着替えることが命じられるようになった。逆に自分が今までどんな生活をしていたのか、あまりにも中身のない毎日だったせいでよく思い出せない。それほどやることがあるっていうのは充実感を与えてくれると改めて知った。最近はTOEICもあってそれの勉強に勤しんでいたし、ゲームを禁止にされたらどうせ他のことなんて手に付かないよ~と思っていたけど別にそんなこともなく、いたって真面目に毎日勉強できたのはそれほど自己評価が低かったのかもしれない。

 

 やることがあるって本当にいい。未だに3時間で目は覚めるけれど、眠る前にごちゃごちゃ考えることはなくなった。だからやることをやって満足して眠ることが人間の幸せの形だと思った。きっと毎日を同じことをしているとだんだんその満足感に飽きてくるから新しくやることを見つけて成し遂げないといけない。飽きて新しい事を見つけるたびにそれの難易度は上がっていくけど、人生はそれの繰り返しで、それこそが幸せの形の一つなのだろう。