光で出来た鮒が一葉一葉に住み着いて群を作っていた 木々たちはそれを許し、彼らに餌を与えた 規則正しく列を成して泳ぐその魚たちはまるで押し引く波のように木々の中を縦横無尽に泳いでいる 凪の中にあっても魚たちはゆったりと泳いだ 私は光の中に釣り系…

あなたが譲ってくれるのなら、わたしはそれでもよかった だれにでも等しくあるものじゃないから だからわたしは息を呑むように生きた だれかが私に譲ってくれるまで待った でもやっぱり誰も手放そうとはしてくれなくて それは本当に大切なもののようで わた…

「逃げようよ」と彼に言った 彼は暗い夜の灰色をした瞳をこちらに向けて 「いやだよ」 と一言呟いた ぼくはもうこんなところに居たくなかったのに、彼はどうしても動いてはくれなかった 「ここは俺たちの聖域なんだ。だから俺は逃げない。逃げる必要がないか…

六月 風の匂いを感じる22時 ほんの少しだけ肌寒い夜に 缶ビールを飲みながら川沿いを歩く 公園では枯れかけたハルジオンと満開のアジサイが同居していて 出所不明の寂しさが唐突にやってくる それを振り払うように空き缶を投げ捨てた たばこを吸おうとしたけ…