ザ・ジャンキー

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帰郷-homecoming-

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映画を見ている時だけは不安でも孤独でもない

ただ満たされた時間なんだ


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施しは人を傷つけるときがあります

ぼくはそれが最善だと思っていろんな女の子に無償の施しをしたけれど

結局誰もぼくに感謝なんてしなかったし

(感謝を求めていたわけじゃない。ただ、ぼくを見つめて欲しかっただけだ。もしかしたらそっちの方がハードルが高いのかもしれない)

むしろ彼女らは傷ついていたように思う

 

貢いだり幸せを願ったりが、相手の負担になっているということ

相手を想う気持ちとは裏を返せばただの自己満足だということ

相手と利害が一致していないと全て無駄になってしまうこと

金も

時間も

気持ちまで

 

でもぼくはまた同じことを繰り返している

学ばないものだ

今度こそ上手くいけばいいけれど


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映画が好きだ

子供のとき

まだ小学生だっただろうか

午後のロードショーで放映していた「エイリアン」を見て虜になった

あまりにもカッコいいエイリアンの姿

見たこともない宇宙船の造形

俳優たちの迫真の演技

ホラーテイストのストーリーライン

全てがぼくの琴線に触れた

 

それ以来、父が映画好きなのも相まって

中国の反日映画をたくさん見た

香港のカンフー映画もたくさん見た

ぼくの小学生時代はその二つで構成されていると言っても過言ではない

ジャッキーチェンと反日感情

父にそんな意図は無かっただろうし、その映画を見せてほしいとねだったのはぼくだった気がする

それでも日本で生きているのに

やけに染み付いてしまったこの感情はそう簡単に拭えるものではなく

「日本が嫌いです」と公衆の面前で口に出して顰蹙を買うこともしばしばあった

子供だったぼくはそれの何が悪かったのか全然わからなくて

少しだけ苦労した

 

中学生になってからお小遣いがもらえるようになって、それからは毎週末TSUTAYAで映画を借りて見ていた

インターネットで面白い映画と検索して出てきたものを片っ端から見た

理解できないものがほとんどだったけれど、中学生のぼくには何もかもが刺激的で

週末はいつもウキウキしていた

 

高校生になってあまり映画を見なくなった

それは特進クラスに入ったからで

授業や宿題、大学受験に向けた勉強などが驚くほど忙しかったせいだ

結局ぼくは日大というあまり良くない大学に入学したけれど

クラスのみんなに置いてけぼりにされないよう最低限のことはした

 

高校でも失敗したことがある

中学生のころに狂ったように毎週毎週映画を見ているヤツなんていない

みんな普通の学生だ

適度に遊んで適度に学んで適度に生きてきた普通の学生たち

なのに「この映画もこのゲームもこの漫画もこの曲も知らないのかこいつら!?」ってぼくは思ってしまった

マウントを取り続ける毎日

お前らより世界を知っている、なんて顔をして彼らを見下していた

実際にはもちろんそんなことはなくて

みんな世界を知っていた

むしろぼくだけが世間知らずだった

 

その結果、ぼくは高校の友達が一人もいない

クラスの同窓会にも呼ばれない始末だ

 

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映画はいい

知らないものを教えてくれる

知らない風景を見せてくれる

視覚と聴覚に直接訴えかけてくる

「お前は生きてるか?」と

アクションでもSFでもラブストーリーでもホラーでもドキュメンタリーでもいい

どんなに暗澹とした作品でもただのスナッフフィルムのような作品でも

作品内で語られる言葉や音楽は

ぼくたちを生かすのだ

 

何度も映画に救われた

心が折れそうなとき

もう完全に心が折れたとき

支えてくれる人なんて誰もいなかったけれど

映画だけが言葉なく寄り添ってくれた

どれだけ心が死んでいても

作品内で生き生きと活動するキャラクターたちを見ているとたちまち息を吹き返した

どれだけ孤独でも

見たこともない映画たちが数万本とそこにいた

 

映画はただ面白い

面白いものは良い

人生を豊かにしてくれる

それだけだ

誰も人を救うために映画を作る人はいないと思う

(もしかしたら結構いるのかも?)

面白さに付随してぼくを救ってくれただけだ

でも感謝している

本当に、本当に

 

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苦しんでいるのなら

映画を見るといい

何も感じないかもしれない

でも、それでいい

いっときでも孤独が和らいだらそれでいい

君はこの120分だけは救われていた

間違いなく