溢れる時雨

 

六月

風の匂いを感じる22時

ほんの少しだけ肌寒い夜に

缶ビールを飲みながら川沿いを歩く

公園では枯れかけたハルジオンと満開のアジサイが同居していて

出所不明の寂しさが唐突にやってくる

それを振り払うように空き缶を投げ捨てた

たばこを吸おうとしたけどライターのガスが切れていて、なんだかみじめで少し笑った。


もう夏が近い。


毎日が通り雨

濡れないように

濡れないように

誰も覚えてなんていないのに

ぼくもきみも雨宿りする

 


七月

あんなに降り続いた雨も止み始めて

太陽が顔を出すことが増えた

コンクリートの上には干からびたミミズが目立つようになって

それを見てやっぱり気持ち悪いなと思ったり、かわいそうだなと思ったけど、すぐに忘れて明日の飲み会について考えていた

 

毎日が通り雨

濡れないように

濡れないように

誰も覚えてなんていないのに

ぼくもきみも雨宿りする

 

 

八月

夏の終わり

使い古された歌が街で流れるようになる季節

とうとう雨も降らなくなって

カラカラに乾いた空気で息が詰まるようになる

寝汗がしみついた部屋の匂いも

炭酸の抜けたサイダーも

とうとう使うことのなかったコンビニ花火も

どれもこれも忘れたかった

 

毎日が通り雨

濡れないように

濡れないように

誰も覚えてなんていないのに

ぼくもきみも雨宿りする

 

 


きみと相合い傘をするために大きめの傘を買った

もうこれからは濡れないな、なんて思いながら目を瞑った

明日は雨が降るといいな。